東京で学生だった頃、ぼくは下宿に住んでいました。
当時は、そういうのが普通でした。
どんな所だったのかと言えば
下宿と言っても、当時は食事が出るタイプは少なくなっていて、ぼくが入っていたのも食事無しのところでした。
大家さんの家族の住んでいる家なのですが、1階に4畳半と3畳間が1つずつ、2階に4畳半が5つ、3畳間が1つ、そして4畳半が2部屋と台所がついたタイプの部屋が1つ。
けっこう大きな家ですね。
トイレは共同、下宿人用の物干しがあって、風呂は銭湯に行くのです。
各部屋のドアには鍵が掛かるようになってました。
玄関は大家さん家族と共用しており、確か閉まってしまうことは無かったと思います。
門限なし。
大家さんの居住エリアの入り口には鍵付きのドアがあったので、玄関の鍵は必須では無かったのです。
一階の玄関から入ったところにピンク電話がありました。
下宿人に電話を掛けるときは、このピンク電話にかけます。
大家さん家族か下宿人の誰かが電話を取って、取り次いでくれました。
下宿人は基本的に学生。学生下宿です。
ですから下宿人同士のつながりがありました。
食事は外食ですから、近くの安い食堂で食べます。
大学のそばでしたから、食事はやたら安かったです。
ぼくが1年生の時に、ラーメンが80円だったと思います。
定食は100数十円から200円くらい。
大学のそばで無くても、新宿のアカシアという食堂のロールキャベツとライスのセットが、やはり100円代だったと記憶してます。よく食べてました。
新宿は、鶴亀食堂とか、汚い安そうな食堂がけっこうありましたが、アカシアのロールキャベツが一番安かったんじゃないでしょか。
たまに下宿人が連れ立って夕食を食べに行ったり、銭湯に行ったりしてました。
下宿の中では、お互いの部屋を行き来してました。
部屋に鍵が掛かりましたが、みんなで共同生活しているような感じがありました。
飲む酒は、ほとんどサントリーのジン。
500円で買えて、同じ値段のウィスキーは不味くてダメだけど、ジンならコーラで割れば飲めますから。
金のあるヤツが1瓶買って来ます。
飲ましてもらうやつがコーラの大瓶買ってきました。
同じく、誰かがピーナツか何か、安いツマミを買ってきて、冷蔵庫から氷を出して飲みます。
周りは同じような学生下宿が集まってました。
ちょいと付き合いのある学生がいる下宿もあります。
ジンの1瓶を飲み尽くすと、よその下宿の知っている学生の部屋に勝手に入って、ウィスキーとかを取ってきて飲んでしまうこともありました。
どの部屋にどんな酒があり、あいつは鍵を掛けずに出るということを知っているのです。
ま、部屋の主も付いてきてしまうこともありますが。
平凡パンチの白黒グラビア
ある日、誰かが平凡パンチを買ってきました。
ぼくは表紙から順に見ていきます。
カラーグラビア、白黒の写真のページ、そして記事。
白黒の写真3、4ページにわたって、見たことない女の子が写ってました。
ジーパンにTシャツ。
髪が長くて、独特のカール。
なんか妙に気になりました。
「おい、これどうだ?」
同じ時期に、この下宿に入ってきて、ぼくの横でインスタントコーヒー飲んでいるヤツに写真見せます。
「かわいいなあ」
「この名前、どう読むんだろう」
「かざふき じゅん、か?」
「いや、ひょっともして、ふぶき、って読むんじゃないか?」
「それは無理だろう」
「でも、ふぶきってのが言いやすい」
「そうか、そうだな」
なんてこと言ってました。
その時から、ぼくらは風吹ジュンのファンになったのです。
なんとなく、この初めて見た、名前の読み方もわからない子が好きになりました。
だって、普通のタレントと雰囲気全然違うんですから。
しかし、その後、しばらく彼女を目にすることは無かったんです。
どうしたんだろ?
なんて言ってたら、アイドルタレントとして歌なんか出しちゃって、テレビで見ると、あのグラビアから受けた印象と全然違う。
やめてくれと思ってたら、失踪しちゃった。
失踪して、ああ良かったと思うのは変ですか?
ようやく戻ってきた時は、あのグラビアの感じがしてて、うれしかったです。
それから、ずっと好きです。