急に中国のことが知りたくなりました。
何か良さそうな本が無いかと図書館の棚を眺めていたら、表題の本を見つけました。
著者の名前は何となく覚えがありました。
「いしだいら」ではなくて「せきへい」。中国の人です。北京大学卒業後、四川大学で哲学部の講師になり、その後来日して神戸大学大学院で博士課程を修了し、2007年に日本国籍を取得。現在、いろんな著書を出し、拓殖大の客員教授をしていると本の末尾に書いてあります。
前書きに目を通すと、中国の共産党体制が終焉する必然を書かれたということです。
読んでみると、現代中国の経済、社会状況が書かれ、さらに共産党支配が崩壊する様が、シュミレーションですが描かれています。
さすが水滸伝の国だなと感心しながら楽しみました。
ただ、この本、2015年に書かれたものです。五年前。
この系統の本は、数年後に読むのは反則です。著者の考えた通りの未来になるのかならないのか、それは人智の及ばざるところですから、結論が出た後に読むのはずるいのです。
しかしながら、現在、まだ途中。結論は出ておりません。
現在の中国の状況は、また別に知ることとしても、この本、まだ楽しめます。
書いてあることをザクっと
内容を簡単に触ってみましょう。
小説では無いので、ネタバレを気にする必要はありません。
本文は、具体的な日付、地名、数字等裏付けがきっちり書かれていますので、興味があれば本を読んでみてください。
序章のタイトルは、「断末魔の中国経済」
基本的に中国経済がやばい状況だということが、2015年現在時点で書かれています。
この時点で、中国政府が公表しているGDPは、嘘だという主張です。
中国の経済成長は2つの要素から
1・旺盛な固定資産投資 バブル景気、そして泡ははじけます
「ハコモノ作り」という言葉を使っています。この言葉で、大体の察しがつきます。
民間消費の伸びよりも、設備投資の急成長が経済成長をもたらしたのです。
2011年までの30年間で経済成長は年10%、これに対しての固定資産投資の伸びは年30%だと書かれています。
1つの省に9つの空港ができたとか、実需を上回る投資です。
民間でも不動産投資は盛んでした。
当然、それには資金が必要ですから、ガンガン通貨供給がなされて、要するにバブル景気の状態。
2009年から深刻なインフレとなり、金融引き締め、そして引き締めすぎてバブルははじけました。
2・対外輸出の成長 世界の安物工場として
これは、もうわかります。
百均でも、甘栗むいちゃいましたでも、なんでも、とにかく安い品物は中国で作ります。
しかしながら、中国での人件費も上がってきて、最近では別のアジアの国に生産拠点は移っていきますから、これも減っていきます。
と言うことで、中国の経済成長は止まりました
深刻なインフレに対しての金融引き締め。
住宅ローンの扱いまでも止めてしまった銀行も出ました。
みんな住宅買うのを見合わせます。
ところが不動産開発業者は、バブルの中、銀行が貸してくれないならシャドウバンクから借りてでも不動産を仕入れてます。
で、在庫過多。夜逃げ、倒産。
大口の貸付先が倒産するので、シャドウバンクもダメになります。
このシャドウバンクは、民間の資金を高配当で集めて営業してる高利貸しですから、シャドウバンクが破綻すると、一般市民も資金を失います。
役所の箱モノ投資も過剰状態、企業の設備投資も過剰。
でもって、安物の対外輸出も他所の国に移るので、中国経済は行き詰まり。
国の発表する成長率は、ウソで、実際は3%くらいじゃないのかというのが著者の見方。
世界の安物工場を支える農民工
さて、著者の言いたいことの根本は、中国経済の状況ではなくて、この世界の安物工場を可能にした農民工のことなのです。
農民工というのは、農村から都会に出稼ぎに来た人たちです。
中国には都市戸籍と農村戸籍があるって知ってた?
都会に住んでいて、工業に従事している人たちには都市戸籍が与えられ、農村で農業に従事している人たちには農村戸籍が与えられてます。
二重構造。
都市戸籍は、都会地での工業等は国が経営しているので、公務員に準じる立場が与えられました。ちゃんとした賃金をもらい、社会保障なんかもあります。
農業をやめて都会に出稼ぎに来て、ずっと働いていても都市戸籍は与えられません。
低賃金で働きます。賃金が安いので、普通に働いていると都会の物価高もあり、田舎に仕送りができません。このため長時間労働をします。
中国の安物生産は、この農村戸籍の人たちのおかげで成り立ってました。
なぜ農村から出稼ぎに出るのか
1994年に財政改革が行われ、中央政府と地方政府の間での税収の分け率は、6対4となりました。
で、地方政府の収入が減り、このため地方政府による公共投資は減ります。
そうすると、与えられた経済成長目標を達成できない地方が出てきます。
目標達成できないと、その地方政府の幹部の出世に響きます。また、景気が良く無いので、地方政府の幹部たちへの不正資金も減ります。
だから、経済成長はさせなければならないのです。
で、どうしたかと言えば、土地を整備して土地開発業者へ、使用権を売ることにしたのです。
ここで「整備」される土地というのは、農地なのです。楽でしょ。
はい、農民の農地を取り上げて売り捌くのです。
農民は農業ができなくなります。生活基盤を奪われたのです。
彼らは都会に働きに行きます。農民工が大量にできた理由はこれだそうです。
2億6000万人いる農民工
日本の人口の倍以上です。
彼らは最下層の都市部の住人となります。両親が出稼ぎで来て、都市部に定着して、都市で生まれた子供も農村籍となります。
最下層労働者です。
なんの社会保障もありません。
夢も希望もない2億6千万人。
共産主義って何なのさ?
ここまで読むと、なんか変でしょ。
はい、そういうイメージは作られたもので、実際とは違うというのをこの本はしっかり教えてくれました。
もちろん香港を見てもわかります。
「階級闘争」って言葉、聞いたことあるでしょ。
共産主義は、基本的に「階級」というものの存在を認めてます。
これは、マルクスの時代の社会に階級があるからです。
革命というのは、その時代に社会を支配している階級があって、そうでない階級の「人民」が、その支配階級を武力で倒して、「とって代わる」ことです。
ということで新たな支配階級は、共産党員てやつです。新しい貴族階級です。
新たな皇帝を倒す勢力が
結局、経済体制とは関係なく、人間てのは自分の手に入れたものを守り抜こうという欲に操られます。
プーチンにしろ習近平にしろ、皇帝になろうとして、自分を脅かすものを、それは人民ですけども、武力で押さえ込み、弾圧によって体制を維持しようとします。
香港の状況を皆さん批判しますが、中国の中でも二極化が生じ、非支配者たちは、ときおり暴動という形で怒りを爆発させます。
2億6千万人ですからね。
これを組織できる者が出現すれば、中国の過去の歴史通り、現在の帝国、共産党を滅ぼして、新たな国ができるのではないかというのが、著者の主張、この本を書いた目的みたいです。
面白いでしょ。水滸伝の国です。歴史がそれを繰り返してきた国です。
もちろん、今は武器の性能が良くて高価です。通信を国家が管理し非支配者たちの組織化を阻止してます。そう簡単には民衆の蜂起が生じないように支配者側も気を配り弾圧しています。民衆と知識階級が結びつくことが無いように民主派の学生は徹底的にやられています。
こんなことを書いていると、もし今度香港にでも遊びに行けば逮捕されてしまうかも知れません。でも、これはぼくが思っていることではなくて、この本に書いてあることなので、そこんとこヨロシク。