70代の真実

70代年金生活者の生活と思ってること、その他思がけないことも

恐怖の過去

1

ぼくが小さい頃、町内に歯医者がありましたので、歯が悪くなると必ずそこに連れていかれました。

 

昔の歯医者ですから、玄関で靴を脱いで、目の前を横切る薄暗い廊下の向こうに小さな窓で受付をして、待合室に入ります。

今思い出すと、その待合室には、いつも他の患者はいませんでした。

呼ばれて、診察用の椅子が一つしかない板張りの診察室に入りました。

痩せて、神経質な感じの歯医者が待っていて、無愛想に診てくれます。

悪い魔法使いの家に行ったような感じ。

 

今と違って、回転数の遅い、ゴリゴリと頭に響く歯を削る機械で、ものすごく痛い治療をします。

耐えきれず、ぼくが泣くと、その歯医者は道具を置いて怒り出します。

付いてきた母親が、なんとかぼくの機嫌をとって、ずいぶん長い時間をかけて拷問が続きました。

 

そのうち、その歯医者に行くと、まずぼくの口を開けさせるのが母の最初の仕事になりました。

小さかったので、他にも歯医者があるのではないかという考えが浮かばなかったのです。

父は、町内にその商売があれば、必ず町内の店を使うという考えでしたので、やはり歯医者を変えようとは思わなかったのですね。

 

小学校にあがりました。

5年生くらいになって、大阪から転校してきた子が同じクラスに入りました。町内はちがいましたが、割合近くに住んでました。

ある日、その子の母親が、例の歯医者に行きました。

次の日、その子が「お母さんが、あんな下手な歯医者は知らない」と怒っていると言うのです。治療に行って、帰ってからも出血が止まらなかったようです。

 

下手なんだ。

ということは、他の歯医者なら、あんなに痛くないかも知れない。

初めて気が付きました。

次に歯の治療が必要になった時、ぼくは親に、他の歯医者に行くと必死に主張しました。

 

全然違う。

普通の歯医者は、あんなに意地悪そうに無愛想で無く、不快で無く、痛くも無い。

生まれて初めて知った事実です。

少し離れたところにある歯医者で、ぼくは神様に感謝しました。

しかし、その時には手遅れでした。

「ああ、ひどいな」

その歯医者が、ぼくの口の中を覗いて、つぶやきました。

歯並びガタガタ。

歯が痛くても、あの歯医者に行きたくなくて治療せずに放っておいた虫歯もあります。

 

今のぼくの歯の状態が悪いのは、最初の歯医者のせいです。

 

2

やがて、大学に行くために東京に出て、仕事も何年か東京でしてました。

ある日、親不知が痛み出しました。

仕事の帰りに、駅の近くで歯医者を探しました。

おそらく、予約が無いと診てもらえないでしょうが、急患だと主張するつもりでした。

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ビルの階段を登って、見つけた歯医者のドアを開きました。

仕切りが無く、奥まで見通せました。

小さな診療所でした。

患者いません。

受付にいがちな可愛い女の子もいません。

診察終了だと思ったような感じで、ぼくは逃げようとしました。

「どうしたんだ」

しまった。

「予約無いからダメでしょ」

「いいよ、今診てやろう」

「いやぁ今日は心の準備してないから」

なんて言ったけど、結局診療所の中に入り、椅子の上に座ってしまいました。

親不知を抜くと言います。

はっきり言って、歯医者というより柔道選手。

腕太い。

 

口開けました。

すごい。

力任せです。

痛い。

握力が強すぎて、歯が砕けたらしいです。

ものすごく手間が掛かって、強引に親不知は抜かれました。

血が止まりません。

 

アパートに帰っても血が止まらない。

震えがきました。

結局、翌日仕事休みました。

 

だいたい抜歯なんか、歯医者がゴソゴソして、準備してるんだな、これから抜くんだろうと思った時には抜き終わっていたりするものです。

やっとこ握って力任せにするもんじゃ無い。

 

その後も、違うところで何回か歯を抜いてもらってますから。

ぼく親不知4本ともあったんです。

 

歯のことを書いていたら、昔のことを思い出してしまいました。

歯医者選びは気をつけましょう。