70代の真実

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「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」滝口悠生 読了

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスてのは、ジミヘンのトリオグループの名前ですね。

映像的には、ステージでジミヘンが足を広げて膝立ちになって、股間あたりに持ったボトルを絞ってオイルを床に置いたギターにピュッとかけてから火をつけるって超有名なパフォーマンスが頭に浮かびます。

あのギター燃やしは、実際には何回もしていないようです。

ついでに、ザ・フーが自分たちの出し物的に困るので、同じコンサートに出るジミヘンにギター燃やしはやめてねと頼んだとかいう本当か嘘かわからない話も思い出します。

ま、ジミヘンはああいうパフォーマンス必要なく1等賞のギタリストなんですけどね。

1960年台のミュージシャン。1970年に死んでますから。

ロックがすごいなあ(褒めてるのではありません)と思うのは、クラプトンとかジェフ・ベックとか、はたまたジミー・ペイジとかの音楽が60年代からずっと生きているってことですね。何十年も。ジミヘンだって死んじゃったくせに今だにすごいギターなんですもん。

ぐだぐだ書いていてすいません。これを書くにあたってジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスの演奏を3曲聴いてみそぎをしてきました。

 

さあ、で、滝口悠生さんが書いた「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」と言う小説の話をしましょう。

作品内にジミヘンの話が出てくるし、主人公の一平がギターを燃やしたりするシーンもあるのですが、果たしてこの作品とこのタイトルが、どれほど深く関連するのかは、70歳になってしまったほくの体力ではよくわかっていません。

なんとなく、このタイトルで書いてみたかったのかな、なんてバカな考えが頭に浮かんだりする体たらくなんです。

 

本はB6ほどの大きさで、大きな活字で3ページから119ページまでの、割合短めの小説です。

 

いきなり19歳の大学生の主人公が、友達の友達から10万円で買ったホンダのベンリィ50Sというバイクに乗って、長い夏休みの終わり頃、九月に東北を旅するシーンから始まります。

ロードムービーという映画のジャンルがありますが、青春のロードノベルってやつかな、って気がしてしまいますね。「On the Road」

2015年8月発行の小説です。

最近読んだ滝口悠生さんの作品が2021年、2022年の出版でしたから、2015年発行の作品は少しテイストが違うのかな、なんて思ってしまいました。

しかし、この作品は、主人公の高校時代、大学時代、結婚して2歳になる娘がいる頃を行ったり来たりします。

なるほど、そういうの慣れました。

帯には

過去と現在がループして互いに影響を与え合い、軋んで熱を帯びる。

そして自分が、語り手がフィードバックして二重写しになる。

なんて、訳のわからないことが書いてあります。なんだこれ?

でも、すでに彼の作品を3つ読んでいますから、この帯の文章にも、ぼくはたじろぎません。

 

109ページに、こう書かれています。

過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。

思い出されるのは知っていることばかりで、思い出せば思い出すほど、記憶は硬く小さくなっていく。

これってポイントなんでしょうか。

 

面白いなと思ったに思ったのは書き出しの部分で、天気の良い東北の田んぼが広がっている静かな場所、バイクから降りて、木陰の下で小さな山に沿って流れる小川に足をつけているシーン。

冷たい川の水に足を突っ込んでボーッとしていた自分の目が、その時に何を見ていたのか、もう覚えていない。目の前のものをいろいろ挙げて、それを見ていたのかと記憶を探っていきます。

何より、それら全てと初秋の澄んだ空気の上にあった雲ひとつない空の濃い青色を思い出す。

でもね、その時の主人公の頭上には、背後の山を覆う木々の枝葉がせり出してきていて、空など見えなかったはずではないかと主人公は気づくのです。

14年も前のことだから、バイクでずっと走ってきた時の頭上にあった空のことを、川の土手に腰掛けながら見ていたように思い違えていたのだろうと。

 

同じように、バイクで仙台に入り、露天で眠ることができる場所を探して、夜、駅前から延びているアーケードの商店街を歩き回った時に、シャッターの降りた酒屋の前で大きな太鼓を両足の間に挟んだドレッドヘアの蒲生という男に出逢います。

蒲生さんと一緒にいると酔っ払いの爺さんが来て、とかいう展開になります。

酔っ払いの爺さんがタイル敷の地面を足でタンタンと打ってリズムを取るのですが、その爺さんの足元は年季の入ったウェスタンブーツ。

ストリートミュージシャンの若い男のふたり組は、ギターケースに腰掛けて缶ビールを飲んでいる。

若い女が折り畳み自転車に跨っ太まま立っていて、ペットボトルの烏龍茶を飲んでいる。

しかし、アーケード内は深夜で街灯が落ちていて暗かった。自分の足や手元も暗くてよく見えない。

それなのに酔っ払いの爺さんの靴が年季の入ったウェスタンブーツだったとか、缶ビールやペットボトルのウーロン茶とか、そんなにちゃんと見えていないはず。

思い出そうとし、それを記そうとしているうちに、そういったものが見えていたように言えるようになる。

 

という感じ。

もしかすると面白いでしょ。

正面切った青春小説じゃありませんでした。

 

ただね、最後は「なんだ、あれ?」と言いたくなってしまいました。