ぼくは最近、自分は何を面白いと感じるのかってことを考えているのです。
これ、けっこう深いテーマなんです。
その回答を与えてくれる訳では無いのですが、「元彼の遺言状」って小説を読みました。
この作品、去年の第19回「このミステリーがすごい」大賞の受賞作です。あの賞金1200万円の。
今年、2021年1月22日に出版されました。
でね、ぼくは読んで感心したのです。
この作者、丁寧です。丁寧に、提示した伏線や、驚く設定、エピソードなどを全て拾って、きちんと始末をつけて行くのです。
ちなみに、ぼくは2回読みました。2回目は話の構成を確認するためにメモを取りながらです。
主人公
「キャラクター小説」って言葉を見ます。
これ意味がわからないのですが、どうやらこの本の巻末に掲載されている去年の「このミステリーがすごい」大賞の総評みたいな文章を読んだら、何となく謎が解けました。
この作品の主人公は「キャラ立ち」してると言うことです。
主人公は、派手な顔立ちの美人で身長もあり、運動も得意(陸上でインタ杯に出ています)な子供の頃から成績優秀だった女性弁護士です。
表紙のパンツスーツで胸を張っているのは主人公のイメージ画なんでしょう。
彼女、強気です。
で、守銭奴というかお金にこだわりがあります。
テレビドラマによくありそうなキャラで、例えばドクターXの大門みちことか、最高のオバハン中島ハルコとか、その類の人物を思い浮かべても問題なさそうなキャラです。
こういうのが「キャラ立ち」ということらしいです。
それでも、この作者、ちゃんと始末をつけようとする人なのです。
冒頭、付き合っている男が主人公に結婚を申し込むのですが、差し出された指輪の価格に見当をつけて、なんでそんな値段の指輪なのかと男を叱り飛ばします。
そういうキャラの彼女が、「お金より大事なものがある」ということを理解しているんでしょと、そういう展開もありなのです。
はたまた、彼女とよく似た性格の父親との対立は、やはり終わり近くに解消されるっぽいのです。
何となく、この辺り、アメリカ映画なんかでよくある主人公の精神的なコンフリクトや家族関係の再構成というか、そういうものの解決ということも、取ってつけたように出てきます。
ただ、この作品は、女性が主人公の行動型ミステリーという分野のもので、事件の解決については彼女の強気で高飛車なキャラで押し切ります。
どんな話か、或いはどんな謎が提供されているのか
主人公が学生時代に付き合ったイケメンの男性は、変な遺言を残して死にました。
彼、森川栄治は、主人公と付き合っていた時には秘密にしていたのですが、森川製薬という大きな会社の社長の息子でした。
しかも、亡くなった祖母から、巨額な遺産も相続しているので、大変なお金持ちだったのです。
元彼の遺言
彼の残した遺言というのは、こんなものです
- ぼくの全財産は、ぼくを殺した犯人に譲る
- 犯人の特定方法は、森川製薬の、社長、副社長、専務の3人(犯人選考委員会)全員が犯人と認めた者とする
- 死後、3ヶ月以内に犯人が特定できない場合、遺産は全て国庫に帰属させる
- ぼくが何者かの作為によらず死に至った場合も、遺産は全て国庫に帰属させる
といった内容です。
他に、過去付き合った元カノたちや、世話になった人たちなどにも遺産の一部を譲るということも書いてあります。
展開
こういう行動型探偵ものというのは、主人公の行動とその結果が次の行動の原因となり、わらしべ長者のように、その行動の連鎖が被害者の秘された状況や犯人の都合などに絡んでいき、最後に犯人が割れるというパターンをとっています。
そして、女性が主人公の場合、犯人が判明した段階で、主人公は危機に陥ったりして、ちょっとしたアクションシーンが描かれることが多いです。
とりあえずインフルエンザで亡くなったとされた森川栄治は、やはり殺されていたのです。
最後にその事実と犯人の正体に思いが至ったのち、主人公は自身が警官たちに追われながらも、新たな被害者を救うべく大立ち回りをします。
この作者、本当に真面目にきっちり小説を作ってくれています。
そして、なぜこのような遺言を残したのか、なぜ森川栄治は殺されたのか、どのように殺されたのか、全ての事柄にしっかり結末を用意し提示してくれます。
思わせぶりに変な設定を書いても、後でちゃんと説明をつけてくれてます。あれ?ってことが無いようにしてくれてます。
あ、死体の数が足りないかもしれないので、もう一つ死体を転がしてくれてます。
最後の始末も抜かりなく
主人公の身の上もしっかりフォローしています。
さっきも書きましたが、取ってつけたようなものですが、アメリカ映画によくある的なものであるのですが、とにかく全てを拾いまくって結末を作っています。
主人公が「この笑顔に弱いんだよな」と思ってしまう登場人物や、憎めない子供のままのようなお金持ちの爺さんも昔のロマンスにもう一度火をつけれたり、そういう感じです。