一人称の探偵小説っていうと、やはりハードボイルド。フィリップ・マーロウとか。
でも、軽ハードボイルドとかソフトボイルドとかいうジャンルもありですね。
この本、2021年5月23日発行なんです。ほやほやです。
帯には
情に脆く、失敗ばかりの"へっぽこ"な探偵。なのに、
悩める依頼人はみな救われる
って書いてあります。
さらに
思い通りにいかない人生を丸ごと抱きしめたくなる
新感覚の探偵小説。
だって。
まあ、そんな感じの作品です。颯爽と犯罪に立ち向かったりしません、この主人公。
みなさん、「工藤俊作」って誰だかわかりますか?
この小説の主人公の名前は、権藤研作。
バツ2で、仕事も無くなり、昔のバイト先の後輩だった男の世話になり、ちょっとしたライターの仕事と住処をあてがわれている状況なのですが、世話をしてくれている友人が、探偵物語のような探偵事務所をやりたいと言い出すのです。名前が似てるでしょ。
権藤探偵事務所って名称で。オーナーは本来の仕事をしてて、探偵事務所は主人公の権藤研作にさせるのです。
今やっている事業のリスクヘッジとしての異業種経営だそうです。ま、ただ「探偵物語」に憧れているだけなのですけども。
あ、これ一人称だから、主人公は「おれ」。
「おれ」は、昔探偵事務所の手伝いのようなことを、ほんのしばらくやったことはあるのですが、実際どうすれば良いのかは、よく知りません。
そんなのできないよと言っているうちに、オーナーはさっさと名刺や看板を作ったりホームページまで立ち上げてしまいます。
おまけに飲みに行くと「おれ」の名刺をばら撒くのです。
ということで依頼が来てしまいます。
最初の依頼人は、余命わずかな美女。「最期に会いたい元恋人」を探して欲しいと言われます。
この本、6話の短編集です。
しかし、連作というのですか、各話は繋がっており、全体で一つのお話を構成しています。
「おれ」は自動車を持ってません。というか免許取消中という状態。
だから、仕事で自動車を使えません。かなり不便。
それに、奥さんの浮気調査を依頼されて張り込みますが、やはり一人では難しい局面もあります。
一人じゃ無理だよとオーナーに言ったら、「なんとかするよ」という返事。
で、オーナーが飲みに行った先のシオンという店のホステス リサコが、時給制のアルバイトとして「おれ」の助手になってくれます。彼女、車も持っているので助かります。
ということで、タイトルどおり「探偵になんて向いてない」「おれ」が依頼人の人生をそっと暖かく抱いてあげるように、さまざまな依頼に取り組むのです。
そう、帯には、こうも書かれています。
あなたも打ち明けてみませんか?
不恰好な人生すら愛おしくなる、ユーモアと慈しみに満ちた物語。
テイストとしては「探偵はバーにいる」のシリーズを、もっとソフトにして、犯罪に関わるような大した事件じゃない依頼に取り組む感じ。
「おれ」はキリッとした人ではありませんから。
作中というか、最後の方に、
うん。権藤探偵事務所の第一クールはこれにて終了
なんてセリフがありましたから、もしかすると作者は第二クールも考えているのでしょうか。
まあ、本作の売れ行きの加減もあるのでしょうけども、もし第二クールがあるのなら読みたいような気がする作品です。