例によって、上下二巻、横に並べれば一つの絵になる表紙です。
他の作家なら、2,3行で済ませてしまうような内容を、キングは平気で数ページ書きます。
でも、決して余計なことを書くわけではありません。
その人物、土地、建物、物などにまつわるバックグラウンドや歴史、その他の事項を書いているのです。そのおかげで小説世界は深まり、雰囲気もグッと増してきます。
さらに、読む方は注意していないと、後で出てくる重要な事柄の伏線もさりげなく仕込まれています。
それでも、キングによって作り込まれた世界や人物の全てが描かれているわけは無いでしょう。ねっちっこく精細に、過去の歴史までも丁寧に作ってありますから、気分のままにその世界を語り出せば、とても二巻の本には収まりきれないはずです。
キングの作品は読んでいると疲れます。疲れるんだけど、面白いから疲れたままで引きずられるように読み進んでしまいます。
だから本当に疲れ切ってしまいます。
それでも、次にまた読んじゃうんですねえ。困ったものです。
と、ぐちゃぐちゃ言ってないで、「アウトサイダー」について語りましょう。
あ、その前に注意事項。
この作品を読む前に、先にホッジス三部作を読んでおいてください。
「ミスター・メルセデス」
「ファインダーズ・キーパーズ」
「任務の終わり」
の、定年退職した元刑事であるビル・ホッジスを主人公にした、スティーヴン・キングのミステリー三部作と言われている作品です。
三作も読んでいられないよ、とおっしゃる貴兄は、「ミスター・メルセデス」と「任務の終わり」の二作だけでも良いです。
と言うか、ホッジスはホリー・ギブニーと二人で「ファインダーズ・キーパーズ」という名称の探偵事務所(私立探偵のライセンスは無いのですが)を始めたということさえ認識していただければ「ファインダーズ・キーパーズ」は読まなくてもいいです。読まない方がいいかもしれません。
さて「アウトサイダー」の話
オクラホマ州フリントシティという平和な地方都市で、13歳の少年が殺されました。
かなり無惨な殺され方です。木の枝が尻に刺さり、体のいくつかの部分が食いちぎられ、穴の空いた喉から血が流れ出している。そして精液が体にかけられていたのです。
犯人の姿は、犯行の前後で多くの人々に目撃され、そして犯行現場や少年の拉致に使われた車両の中には犯人の指紋がたくさん残り、DNAも検査に必要な量が残されています。
全ての証拠と証人証言は、犯人を高校の英語教師(国語教師ってことでしょうね)にして少年野球のコーチで街の名士であるテリー・メイトランドだと示しています。
テリー・メイトランドは、多くの人々の目の前で逮捕されます。
しかし、その犯行が行われた日には、テリー・メイトランドは出張旅行で遠く離れた街にいたのです。そのアリバイを証明する証人や証拠もたくさん揃っています。
とても強く大きな謎が、冒頭に提示されます。ミステリーとして魅力的な始まりですね。
ミステリーなの?
ミステリーとして十分な雰囲気を持った作品前半なのですが、ミステリーじゃありません。
ついでに言えば、キング初めてのミステリーと言われてるホッジス三部作も、3つで1つと考えて、「任務の終わり」が結末だと思うと、これもミステリーでは無いと思います。
「アウトサイダー」は、ホッジス三部作の主要登場人物であるホリー・ギブニーが上巻終わりから登場してから正体がはっきりしてきます。
昔からある、怪物、化け物退治の物語です。骨組みは非常にオーソドックス。
ただ、ホリーのおかげでこういう作品に仕上がってます。
工夫ですね、キング。さすが。
上質なミステリーのシェルを被せて、極めて典型的な化け物退治のお話を提供してくれてます。
今度のキングは容赦ない
本の帯に書かれている言葉です。
ほんと、その通り。容赦なく面白いのです。
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