南條竹則さんの書かれた「魔法探偵」という本を読みました。
どう言えばいいのか、とにかく変な本です。
主人公
主人公は鈴木大切、詩人だそうです。
彼の家は下町の商家で、かってはかなり裕福でした。両親とは早く死に別れたけど、祖父母、曽祖母、大勢の使用人がいて寂しくはなく、日本橋の表通りに四階建ての鈴木ビルがあり、その裏のしもた屋に住んでいました。
甘やかされて育ち、子供の頃から読書に親しんだけども役に立つ学問には興味がなくて詩作に情熱を傾けました。
ちゃんとした仕事をせずに、最後の身寄りの祖母が亡くなった後、市井の隠者になろうとして、その経済的基盤を築くために残された財産で株を買ったら、見事失敗。仕方なしに家を売り払い、根岸の里よりだいぶ北東に外れる、箕輪の交差点から北に進んで千住間道を越え、裏道に入ったところにある「渦巻荘」というボロアパートの六畳と四畳半の部屋が、一階二階上下で空いているのを両方借りて住みつきます。
荒川区南千住の十丁目。
ということで、東京の下町風情あふれる変な小説なんです。
仕事しなきゃで、探偵を始めます
節約すれば、なんとか1年くらいはしのげそうですが、やはり不安ですし、せめて家賃くらいは稼ごうと、主人公は元手のいらない商売を始めることにしました。
それが探偵。
アパートの二階の部屋を探偵事務所とします。
ろくな依頼もなく、妙に猫探しはうまいので、迷子ネコ探しの探偵をやっています。もちろん、ネコ以外の仕事もしたいのですが、依頼が来ません。
酒場が好きな主人公は、変な出会いに遭遇します
この主人公、酒場が好きです。焼酎のハイボールなどを飲みながら、煮込みなんぞを食べたり。
こういう下町情緒と酒場の雰囲気って、作者が好きなんでしょう。詩人で実業職が無く酒場を放浪・・・なんかそんな番組ありますね。
ある日、白い猫を探してさまよう主人公は、本日の営業は終了ということで、酒場でもつ煮込みを食べ、焼酎ハイボールを飲みながらダウスンの詩を翻訳したりしています。ちなみに「風と共に去りぬ」というタイトルはダウスンの詩からの引用だそうです。
その酒場を出て人通りの少ない道をとぼとぼ歩いていたら、どっしりとした構えの煉瓦造りの洋館の前に出ました。何やら二階で人が集まって酒を飲んでいるような感じです。
その洋館の前にたたずんでいると、夏の着物を着た髪の長いすらりとした娘が玄関を開けて、「詩人の会のお客様ですか」と聞くのです。なんとなく頷くと、中に招き入れられました。
そして、主人公は自らの詩に対する意見を披露し、歓迎を受けるのでした。
実は、この詩人の会の参加者は一人を除いてこの世の人では、ありませんでした。
もちろん、あの中に招き入れてくれた娘も。
怪談ではありません
こういう昔の建物や人々を蘇らせるのは、あの洋館があった場所に、現在存在する医院の藤山医師という老人だったのです。
そして、あの洋館に呼び入れてくれた雪乃という娘は、骨が着物を着ている存在だったのです。
藤山医師は、お香でそういう不思議が行える術を身につけていました。
雪乃が鈴木探偵事務所の助手となり、摩訶不思議な、そしてどうでも良いような、軽妙な話がさわっと展開されていきます。
作者
ぼくはこの人初めて知りました。
本の後ろの方に書かれた作者紹介を引用してみます。
南條竹則(なんじょう・たけのり)
1958年生まれ。作家・英文学者。
93年「酒仙」で第5回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。
主な著書「あくび猫」「猫城」「恐怖の黄金時代」「蛇女の伝説」など。
訳書にリチャード・ミドルトン「幽霊船」、ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」など
けっこう趣味的な感じですかね
不思議なテイストでした。
酒、下町、昔の思い出、猫、そんなのが好きな人が書いたんだなあと思います。
パードレ三部作の合間に読むのにちょうどいいのを掘り当てました、って感じです。