変な本を読みました。
「熱帯」という小説があるのです。書いたのは佐山尚一という男。
ただ、この本を最後まで読んだ人間はいないのです。
不思議なことに、ある程度まで読み進めると、その本が無くなり読めなくなるのです。
そういう幻の本をめぐる大いなる追跡の物語です。
帯に書かれた文章を引用してみましょう。
沈黙読書会で見かけた『熱帯』は、なんとも奇妙な本だった!
謎の解明に勤しむ「学団」に、神出鬼没の古本屋台「暴夜(アラビヤ)書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」・・・・・・
東京の片隅で始まった冒険は、京都を駆け抜け、満州の夜を潜り、数多の語り手の魂を乗り継いで、いざ謎の源流へーーー!
なんか色んな要素を並べただけの、よくわからない文章ですね。でも、訳がわからないけど、なんとなくすごそうでしょ。
千一夜物語(アラビアンナイト)との関係
幻の本「熱帯」の謎は、謎の本「千一夜物語」に繋がっているようなのです。
ちなみに「千一夜物語」てのを簡単に説明するとこのように。
いろんな事情で女性を憎むようになったアラビアの王様が、夜毎に処女を一人侍らせ純潔を奪い、翌朝にその首を刎ねていました。
これ何ハラと言えばいいのかなんて呑気なことを言ってられない状況ですね。
ということで大臣の娘シェーラザード(この作品の中ではシャハラザードと記されてます。シェーラザードと書いたのは浅田次郎の小説のタイトルになってるし、そういう名前のお店があるような気がしたのでとりあえず。この後はシャハラザードと書きます)が立ち上がります。
シャハラザードは王様の寝室に侍ります。でも、何かされる前に不思議なお話を語り始めます。話を聞いているうちに朝になり、面白いから首を刎ねられず、また次の夜に話の続きをせがむのです。話が尽きるまではシャハラザードは無事です。
ということでお話は千一夜に及びます。
そんでも「千一」てのはとても多いって意味で使ったんですよね?
ただ、人によっては本当に千一の話があるんじゃない、とか、あるべきだとかいう考えもあるんです。中には他所から持って来た話を「千一夜物語」に追加して、数合わせをしようとする人もいたりして。
そんでもって、これ原本はアラビア語で書いてあります。これを英語に翻訳したり、フランス語にしたり、いろんな言葉に訳されてます。
日本語で書かれているのは、そういう英語やフランス語などに翻訳したものを日本語に訳したものです。
で、いろんな言葉に訳しているうちに意訳というか、自分の好きなように書いた人もいるみたいです。
だからいろんな「千一夜物語」があってしまう。
挙句に、シャハラザード自身が、新しい話を求めてるんじゃ無いですか、新しい夜を生き延びるために。
ということで「千一夜物語」は不思議な本なのです。
さあ、「熱帯」の謎が、どのように「千一夜物語」の謎に繋がるのか?
それはこの作品を読んでください。
「熱帯」の紹介もしないとね
誰も最後まで読んだことのない本「熱帯」。
本が消えてしまった後に、なんとかしてその本を手に入れて読み続けたいと思っても、二度と手にすることのできない「熱帯」。
誰かと話をしているうちに、その人も「熱帯」を読んでいることがわかると、覚えている話の内容を聞きたくなります。もしかすると、その相手が自分よりも先まで読んでいるかもしれないでしょ。
ということで「熱帯」を読んだことのある人たちが集まって、「熱帯」の内容を思い出しあって本の内容を確認する集まりができました。「学団」という名前のサークルです。
学校を卒業して就職した職場を、諸般の事情で辞めてしまった白石さんは、有楽町のビルの地下にある叔父さんが経営している模型店の店番を始めました。彼女、本が好きなんです。
本を読みながら店番をしていると、同じビルの上の階にある会社に勤めている池内氏という30歳くらいの男性がよく店に来ます。そして白石さんと池内氏は世間話をするようになるのです。池内氏はいつも黒い表紙のノートを持ち歩き、それにいろんなことを書くのです。彼の好きなものは鉄道と読書。
実は池内氏は「熱帯」を読んだことがあり、その謎を追求する「学団」というサークルに入っています。これを池内氏から聞いた白石さんは、ふと自分も「熱帯」を読んだことがあるのを思い出します。もちろん白石さんも最後まで読んだことはありません。
そして池内氏は「学団」に白石さんを連れて行きます。
「学団」メンバーの一人である初老の女性 千夜さんは、白石さんと話してあることに気が付きます。そして彼女は学団を退団して、自分が生まれ京都へ行ってしまいます。
そして千夜さんは、池内氏に京都から絵葉書を送ってきます。
それには、「わたしの『熱帯』だけが本物です」と書かれていました。
「おそらく『熱帯』の秘密は京都にある」と池内氏は白石さんに言います。
実は、千夜さんは若い頃、「熱帯」の作者、佐山尚一を知っていたのです。
金曜の夜、池内氏は京都に旅立ちます。
新幹線に乗る前に池内氏は白石さんに、千夜さんから秘密にしていてくれと頼まれていた千夜さんの若い頃のことと佐山尚一のことを打ち明けます。
京都にある「熱帯」の秘密を知るために池内氏は、日曜の夜に帰ってくると白石さんに言い残して新幹線に乗ったのです。
しかし、月曜日になっても池内氏は東京に帰ってきません。
そして、池内氏から大きな封筒が白石さんに届きます。中身はいつも池内氏が持っていた黒いノートです。
白石さんは、そのノートを開きます。そこには京都で「熱帯」の秘密と千夜さんの足取りを追った池内氏の記録が書かれていました。
白石さんは「自分も京都に行ってくる」と模型店の叔父さんに言います。白石さんと池内氏が良い仲になっていると勝手に思い込んでいる叔父さんは「行ってこい」と白石さんを送り出します。
京都までの2時間の新幹線の中で、白石さんは池内氏のノートを読むのです。
京都での池内氏の活躍というか冒険というか、この部分良いですよ。
さあ、池内氏は千夜さんと「熱帯」の謎にたどり着いたのでしょうか?
ちょっとどうなの?という部分もありますし、未完成ぽいところもありますけども、この息苦しいほどの濃密なイマジネーションの世界、ぼくはこの作品好きなのです。
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