米澤穂信さんの「黒牢城」を読み終えました。さすが直木賞受賞作品という気持ちになる作品です。
前提となっている歴史の話 この作品の話ではありませんので、ご存知の方は読み飛ばしてください。
伊丹って、場所がわかりますでしょうか?
あの空港があるところです。伊丹空港、あるいは、兵庫県ですが大阪空港と呼ばれている所です。
すぐ近くに宝塚。少女歌劇団の宝塚です。
戦国時代に前の領主を追い出して、荒木村重という武将があの辺りを治めてました。戦国大名ですね。
息子の嫁は、明智光秀の娘です。
当時、中国地方の毛利が、信長に対抗しうる大勢力でした。
この毛利の力をあてにして荒木村重は織田信長に対し謀反を起こすのです。
自分の息子の嫁は、明智光秀のところに返します。
この辺りは、NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」でも出て来ましたね。
でも、結局、荒木村重の考えは変わりませんでした。
最後の最後、秀吉が黒田官兵衛を説得に行かせます。黒田官兵衛は姫路あたりの人ですし、荒木村重とも付き合いがあったのでしょう。
しかし、黒田官兵衛も荒木村重の心を変えることはできませんでした。
そして、荒木村重は、説得に来た黒田官兵衛をとらえて、有岡城の地下の土牢に監禁してしまいます。
この土牢生活のために黒田官兵衛は足を痛めてしまいます。ドラマなどで彼がびっこを引いているのを見たことがあるかも知れませんね。その原因が有岡城の土牢での監禁生活なのです。
殺されるでも無く、生きて返されるのでも無く、黒田官兵衛が生きたまま土牢に監禁されて帰ってこないので、織田信長は官兵衛が荒木村重側についた、信長を裏切ったと思ってしまいます。
黒田官兵衛の幼い息子は、織田信長に人質として差し出されています。預かっているのは秀吉です。
父親が裏切ったのならば、当然人質は殺されます。
ということで、黒田官兵衛とシンパシーを感じあっている竹中半兵衛に、黒田官兵衛の息子を殺せと秀吉(信長)が命じます。
しかしながら竹中半兵衛は、黒田官兵衛が勝ち目のない荒木村重の企てに加担するとは信じられず、別の死体で誤魔化して、黒田官兵衛の息子を殺さずに匿います。
で、籠城戦のあげく有岡城は落ちます。
黒田官兵衛が地下の土牢から救出されて、彼への疑いは晴れるのです。
そこで、知恵者の竹中半兵衛は、実は黒田官兵衛の息子(後の黒田長政)は生きております、色々騙してたことを許してねと、またまた上手に上(秀吉や信長)をたぶらかして許してもらってしまいます。
ということで死んだと思っていた息子と再会し、黒田官兵衛は喜び、その時にはすでに病で亡くなってしまっている竹中半兵衛に感謝するのです。
この話は、史実なんでしょう多分。そして吉川英治大先生が「黒田官兵衛」という作品で一部始終を語っておられます。
なお、有岡城で信長の軍勢相手に籠城戦を行った荒木村重は、落城前に城を脱出し関西神戸近くを転々として戦いを続け、毛利のもとに逃げ込みます。そして武士を辞めて茶人として生きます。結果として、本能寺で明智光秀に討たれた織田信長よりも荒木村重は長く生き延びたのです。
一向宗
もう一つの時代背景として、大阪本願寺、一向宗てのがあります。これも織田信長に対抗してました。
仏様のために戦って死ねば極楽に往生できるなどと煽るので、門徒は死を恐れずに戦い、信長もだいぶ手を焼きました。
信長に対抗した有岡城内にも一向宗の門徒は多くおり、雑賀衆の方からも鉄砲の名手が送り込まれています。
以上、「黒牢城」を読む前のお勉強でした。
さて「黒牢城」です
黒田官兵衛を土牢に閉じ込め、織田信長に対して対抗を明らかにした荒木村重の有岡城は籠城に入ります。
基本的に毛利からの援軍を待つ作戦ですから、それまでの間城に立て篭もり、中国地方への信長軍の遠征を妨げれば良いのです。
籠城は1年にも及びました。
有岡城は守りの堅い城です。事前から兵糧なども十分に城内に蓄えておきましたから、籠城も長く続けられたのです。
しかし、毛利の軍勢はやって来ません。
有岡城と毛利の間に存在する備前美作(岡山県)の宇喜多が織田に寝返りました。
そのジリジリとした籠城の間に、城内では不思議な事件が次々と起きます。
大前提とした毛利の援軍が来ない状況の中で、家来たちからの謀反の可能性を頭に入れつつ城内を治めている荒木村重は、これら不思議な事件が造反の発露である危険性を認識しながら謎を解こうとします。
そして、謎の解明に行き詰まった時に、荒木村重は地下の土牢への階段を降りていくのです。
宣伝では、土牢に閉じ込められた黒田官兵衛が、外に出られないまま推理を働かせて事件を解明するような感じを受けたのですが、実際にはヒントになるようなことを提示するのみで、その謎かけのような言葉を頼りに荒木村重が真相に到達するといった塩梅です。
推理小説として成立していますが、戦国の時代に、信長に対抗して籠城を続け、頼みの毛利の援軍の望みも絶たれという状況、その中での造反の予感の緊張感、主従の関係など、荒木村重を主人公とした時代小説としても十分に深く面白い作品です。
とりあえず、帯の文章から
骨太な合戦描写と、ちりばめられた疑惑。
複雑に絡み合う「なぜ」が物語末尾で爆発する。
この2行目が、読後、なるほどなと思うんです。