ぼくの住んでいたアパートの前を走っている道を東に行くと、コベントリーという通りとの交差点がありました。
この交差点を右に曲がった辺りは、変に小洒落た感じの一帯でした。と言ってもクリーブランドなんですが。
レコードショップやヘッドショップなどがあり、なんて言えば良いんでしょうか、若い失業者連中というか、ヒッピー(古いですね)みたいな人達の溜まり場みたいな感じでした。
その中にコーヒーショップがありました。
ぼくは初めてこの一帯をぶらついた時に、その店に入り、コーヒーを頼みました。
カウンターの中には、口髭のある背の高い黒人が入ってました。
コーヒーをもらってお金を払う時に、その黒人が、「お前、日本人か?」と聞くのです。
そうだと答えると、囲碁をするのかと聞くのです。
ルールを知っている程度だと答えると、囲碁をしようと言って、店の奥に案内されました。
ドアを開けると広い部屋に、テーブルセットに碁盤がいくつか、チェスのセットがいくつか置いてありました。
その黒人は、ジェローンと名乗り、碁盤のある席に座りました。
彼は、この店には囲碁をするのが何人か来て、遊ぶのだと言うのです。
その中には、アメリカの黒人で当時ただ1人、三段の人もいるらしいです。
ぼくは、日本で飲み友達とものすごく下手くそな碁を何回かやったことがある程度です。
ジェローンと碁を打ってみました。
ぼくよりも強いです。
それでも、彼は、日本人のぼくを常連にしようと目論んでいたのか、やたら親しくしてくれます。
結局、ぼくはそのコーヒーショップの常連になっていました。
ジェローンは、昭和の名棋士坂田栄男九段の書いた本の英訳を読んで勉強しているらしいです。
坂田栄男氏は囲碁に関してさまざまな本を書いていますし、入門者向けの本も書いています。
ところで、坂田氏の栄男という名前、EIOと母音が並んだ名前は、アメリカ人にとっては手強い発音らしく、エイオとは言えず、なるほどと思うような発音でした。