70代の真実

70代年金生活者の生活と思ってること、その他思がけないことも

「戒名探偵 卒塔婆くん」高殿円さん作

高殿円(たかどの まどか)さんをぼくは知りませんでした。

図書館で本を借りると、知らない作家の本を意識もせずに手に取ることも多いのです。

さあ、もう行かなくっちゃというタイミングで、適当に書架に並んだ本のタイトルだけ見て引っ掴んだりするもので。

こういうのが良いんです、図書館は。家に帰って表紙を広げてみて、気に入らなかったら読まずに返せば済むことですから。

 

で、この本は読みました。

この文庫本の表紙は、あんまり良く無いですね。

ぼくが借りたのは、文庫本じゃ無いけど表紙が固い紙では無く、ターコイズブルーの地にタイトルが縦書きになっていて、ちょっと霊魂に見えそうなシンボルが配置されているデザインで、このような人の絵は描かれていませんでした。

この文庫本の表紙だったら、多分掴まなかったと思います。

 

この本には、3つの中編(短編?)が本の厚みの半分ほどを占めて、残りの厚みのほとんどを1つの中編が使っています。

合計4つの中短編と、ちょいとしたエピローグで出来ている本なのです。

主人公は、麻布にある金満寺(きんまんじ)の次男、金満春馬(かねみつ はるま)。ダメな子です。

通っているボンボン学校(高等部)の同級生に、外場薫(そとば かおる)という、上の文庫本の表紙に描かれているような外見の、ぬるっとした男がいるんです。

この外場薫が、戒名探偵 卒塔婆くんなんです。

 

よくわからない男、外場薫は、どういうわけか仏教系の知識がすごく、あるいは墓とか戒名とかの知識が深いのです。

で、この外場薫の知識を縦横無尽に駆使しての妙な推理が展開されるのです。

 

1・戒名探偵 卒塔婆くん

最初の中編(短編?)は、本のタイトルと同じタイトルです。

金満寺の墓場区画拡張の工事の最中に、去年枯れた松林のあたりの地中から、戒名の書かれた墓石が出土しました。

現行の法律では、放置されて誰のものかわからない墓地でも、1年間は縁故者を探さなければならないらしいのです。

ということは、墓地拡張計画は1年間お預けになってしまいます。

どうにかしろよと、元ヤンキーの副住職の兄貴に強要されて、金満春馬は動かざるを得なくなりました。

しかし、春馬にはあてがあるのです。

ということで、ぬるっとした同級生の外場くんの協力を乞うのです。報酬は、寺にお供えされた高級和菓子。

 

で、外場薫の仏教及び墓戒名の知識をもとに、その墓石に祀られた人物が特定されるのです。

 

2・わが青春の麻三斤館

今度は、金満春馬が子供の頃から知っている善九寺の娘、尊都(みこと)からの依頼です。

善九寺の檀家の江戸時代の先祖の墓が、善九寺にあるはずだけど、それがどこにあるのかわからなくて、探して欲しいというのです。

で、これまた外場薫が大活躍、ま、学校の部室に座って、金満春馬が現地(善九寺の墓場)で撮り集めた墓の写真を見ながら推理するんですけども。

 

 

こういうのって蘊蓄小説とでも呼ぶのでしょうか

寺の息子のくせに、何も知らないボンクラの金満春馬に、仕方なく説明しながら外場薫の推理は展開されます。

仏教系、墓、戒名の蘊蓄が語られ、面白いのはその部分で、その知識に根ざした推理が珍しくて小説を読み進むのです。

しかしながら、最初の2つの作品に比して、後の2つは、ちょっとこの蘊蓄の部分が薄くなっており、また別の感じになっています。

 

 

3・西方十万億土の俗物

最近皆さんの仏教に対する関心が薄くなってきていて、それに危機感を抱く寺の跡取りたちが、寺に関心を持ってもらうためのプロモーションをプロに頼もうかということになります。

で、ちょいとした経緯で、プロのプロモーターの女性(息子がいるけど美人)と外場薫が張り合うことになるというものです。

 

4・いまだ冬を見ず

戦後の闇市から立ち上がり、世界的に有名な企業を育てた有名な企業家の伏間史郎96歳が、自分にふさわしい戒名を作った親族に、会社の株を相続させると言い出します。

で、伏間史朗のかなり遠い親戚である、春馬や外場薫の担任教師 里村先生が、春馬から聞いた外場薫の空前絶後の知識を頼って、この法名づくりを頼んでくるのです。

 

外場薫は数日の調査の結果、伏間史朗の隠された真実に辿り着き、まさしくふさわしい戒名を考えるのです。

 

 

という内容の本です。

蘊蓄が面白いのですが、最後は横溝正史の世界に近いものが提示されるのです。

全部蘊蓄で押し切って欲しかったかな。