ぼくは不勉強なので、小川洋子さんについてほとんど知識がありませんでした。
この本は、小川洋子さんがいろんな工場を訪れて、工場愛に溢れる文章を書いているエッセイ?リポート?ルポルタージュ?、ま、そんな感じの本なのです。
新聞の書評欄で見つけて、よくわからないけど、なんか面白そうだと思い、iPhoneで図書館に予約を入れたのです。
で、読み始めて驚いたというか、感じたのは「文章すごい!」ということです。
文章が素晴らしいのです。
この本は、手許に置いて4回でも5回でも読み返して楽しめる、そんな文章で書かれています。
ということで、不勉強で知識の足らないぼくは、この人何者?と、ようやく裏表紙の折り返しに書かれている著者の紹介を読んだのです。
以下、引用します。ちょっと端折っている部分もあるのは許してください。
1962年、岡山市生まれ。
91年「妊娠カレンダー」で芥川賞
06年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞
20年「小箱」で野間文芸賞
他に「薬指の標本」「琥珀のまたたき」「不時着する流星たち」「口笛の上手な白雪姫」など
なお、2007年にフランス芸術文化勲章シェバリエ受賞
ああ、知らないということは恐ろしいことです。
昔、新宿のどっかのビルで、「あ、このイラスト好き」と、ピカソの線だけで描かれた具象画を印刷したのを見てほざいて、恥をかいたことがありましたが、こういう人の文章を読んで「あ、文章すごい」などと思ってしまったと書いてしまう恥ずかしさ。
大変失礼しました。
それでもね、事実なんだから仕方ない。この本の文章は、何回も読み直してしゃぶり尽くすべきです。
ぼくは、途中から気に入った部分をノートに書き写しています。こんなことするの、初めてです。
さて、本の内容ですが、著者の書いた<あとがき>に、このように書かれています。
長年抱き続けている工場への思い入れを、本の形にして記したい。子供の私が味わったあの瑞々しい体験を、作家になった今の自分の言葉でよみがえらせてみたい。本書はこうした素朴な願いからスタートしました。
そう、この人、工場が好きみたいなのです。
金属加工(穴開け専門)、お菓子(グリコの工場)、ボート製作、乳母車(複数の園児たちを乗せて保母さんが押すやつとか)、ガラス加工、鉛筆の各工場を取材に訪れるのです。
時代の最先端でぐいぐいやっている、というよりは、たとえ目立たない場所であっても、派手さはなくても、地道にものづくりに取り組んでいる。どんなに時代が変化しようとも、人間にとって変わらず必要なものを作り続けている。結果的にそういう工場ばかりでした。
と著者も振り返っています。
5年かかっているそうです。
でね、例えばボート工場を出たときに
外は大雨が降っていたが、気分はさわやかだった。本当は自分のすぐそばにあるのに、迂闊にも今まで触れようともしなかった、新鮮な世界の空気を吸ったかのような気分だった。
なんて感想を抱かれるのです。
なんか、各工場に愛情を感じてらっしゃる。
面白いしね、とてもお勧め。
自分以外の皆様方に、ぜひ読んでもらいたいような気がしてしまった本でした。
ぼくは、この人の小説を読む前に、この人の文章のファンになってしまったのです。