前回の「コウノトリの道」徹底解析1からの続きです。
この作品は、番号だけが付いた章、あるいは区分けが1から57までとエピローグで全部で58あります。
さらにこれら番号の付いた57の章をいくつかずつ取りまとめて、大きな区分けが6とエピローグという構成です。
大きな区分けは
というタイトルが振られています。見てお分かりのとおり、舞台となる場所によって分けてあります。
1の美し国ヨーロッパは、イントロです。この「徹底解析1」で扱いました。
5と6は事件の結末、謎の解明、決着が描かれています。
2から4は、東欧、イスラエル、アフリカという道順で書かれており、ここでは、さらなる謎の提供、新たなる情報の提示と整理を行い、読者を結末に引っ張っていこうという魂胆です。
アクションと主人公の危機、そしてセックスという娯楽冒険活劇の王道を歩みながら、読者を逃さぬ構えです。
2から4の目的
- 主人公についての説明、人物描写を通して感情移入させたい。
- コウノトリを追う理由を読者に推察させてストーリーを追わせたい。
- マックス・ベームについての情報の補完により、ダイアモンド密輸という犯罪に肉付けをしたい。
- 心臓移植ということを読者の頭の中に意識させておきたい。
- 心臓を抜き取られた死体というものによって、心臓移植に忌まわしい印象を与えたい。
- <統一世界>という組織に対する疑いを読者に持たせたい。
デュマ警部の扱い
この登場人物は、実に都合のいい存在です。
徹底解析1で申しました通り、主人公ルイがこの冒険に関わるきっかけ、理由を作るために登場します。
そして、この複雑なストーリーについていくためには、マックス・ベームという人物に関わる情報を読者に提供する必要があります。他にも情報の提示が必要で、ただでさえ余計な描写がしっかりあるので、もう大変。ということで、これらをデュマ警部からのファックスとして提示します。
デュマ警部は作者にとって便利な存在でしょ。
そして、実は最後の方でデュマ警部は食わせ者であることが判明します。
主人公をこの冒険に引き摺り込んだ理由がはっきりするのです。
派手にネタバレとタイトルに書きましたので、許してください。
このデュマ警部、最初から用意していた登場人物なのか、それともいろんな都合から捻り出したのか。
後者のような気がするのですが、とにかくこの人物を作ったのは作者のヒットですね。
2・戦時下のソフィア
ここでは東欧が舞台です。
を訪れます。
8月の末から9月の始めにかけて。
スロバキアでの作者の目的
1・これから先のお膳立ての説明
行く先々で、マックス・ベームが雇っているコウノトリの観察者がいます。
マックス・ベームは、これら観察者たちと主人公が接触し、現地で主人公を助けるように段取りをしています。
ちなみにプラティスラバでは、ジョロというタクシー運転手がベームから金をもらって鳥の観察をしています。
それから<統一世界>という組織があって、これが胡散臭いと読者に思わせる最初のポイントです。
ジョロの話の中で、<統一世界>という国際組織から、胡散臭いブルガリア人が二人来て、いなくなったコウノトリのことを聞いて行ったと出てきます。
今からの主人公の冒険のお膳立てについて、読者にわかるように提示します。
2・主人公の紹介
しょっぱななので、主人公ルイの孤独な生活や外見の説明なども、ジョロとのファーストコンタクトのための待ち合わせの間に語られます。
3・マックス・ベームについての情報の提示
主人公が泊まるホテルにデュマ警部からのファックスが来ます。
ここにはマックス・ベームの経歴が書かれています。
技師免許を持って、1963年からアフリカへ行く。南アフリカでダイヤ採掘の基礎工事監督、それから独裁政権下の中央アフリカ共和国へ。独裁者に雇われて様々な仕事をして、1977年から一年間行方不明とか、1979年にスイスに戻った。
南アフリカ、中央アフリカ(こっちは架空の国)とダイヤモンドの産地を並べて、マックス・ベームがダイヤの密輸に関係していそうな印象を読者に植え付けています。一年間の行方不明で謎をさらに深めてます。
性格は、頑固一徹で情け容赦無い。
結婚して、一人息子がいたが、息子の足跡も消えている。マックス・ベームの葬式にも来ていない。
行方不明の息子というのも怪しさを増してくれます。
妻は、1977年に癌でスイスで亡くなった。
遺産の莫大な金額。どのようにしてこんな財産を築いたのかという疑問。
ざくっと、こういう情報を読者に提示しています。
ブルガリアでの作者の目的
1・マックス・ベームの追加情報
ソフィアのホテルにデュマ警部からのファックスが来て、マックス・ベームの情報の追加提示。
中央アフリカで四年間マックス・ベームと一緒に仕事をした技師に会ってきた報告。
独裁者ボサカに雇われて、いろんな仕事をしたが、ダイヤの鉱床で作業の監視を行なっていた。
前から心臓が不調で、奥さんが亡くなったという電報を受け取った時に、現地で倒れた。
ベームは意識を取り戻し、コンゴ国境近くに知り合いの宣教団が来ており、医療設備があるので、そこに運んで手当てをしてもらいたいと言い、一緒にいたものがヘリコプターの手配をして戻ってきてみると、ベームは消えていた。
2・心臓を抜き取られた死体
ブルガリアで主人公の世話をしてくれるのはマルセル・ミナウスという男。
言語学者だが、コウノトリの専門家のラジコ・ニコリッチを紹介してくれることになっていた。
ラジコ・ニコリッチはロマ(ジプシー)。ラジコのところ(スリベン)へ行くと、今年の春に殺されていました。
さて、このラジコの殺され方が、ボロボロになっていて、心臓が抜き取られているというもの。
この殺され方の提示。
発見者のロマにも話を聞きます。
- 死体があったのは森のそばの空き地。草が平らに押しつぶされていた
- 前日はひどい嵐だったのだろう、木々は皆横に傾き、葉っぱが散乱していた。
なんか思いつくことがあるでしょう。ヘリの使用です。これはここでははっきり言わず、アフリカで明確にします。
3・ミラン・ジェリク医師の読者への紹介
ラジコの検死は、ロマ(ジプシー)なので、まともには扱ってもらえず、やはりロマの医者であるミラン・ジェリクが検死しています。
このミラン・ジェリクは、後に重要な役割を受け持ちます。
ミランから話を聞きます。
心臓の摘出はプロの外科医の仕事。その後で動物の噛み傷がつけられた。
犯行は、死体が見つかった場所で、ビニールシートを敷いて行われた。周りに血が飛び散っていなかった。
そして、心臓摘出は麻酔なしで行われた。
ここで、ミラン・ジュリクは、主人公の顔に見覚えがあると言います。
4・ソフィア駅でのアクション、活劇要素
イスタンブールに向かおうと、列車に乗る直前、主人公は二人組の殺し屋に襲われます。
これは冒険活劇なんだぜと作者が宣言します。
主人公、アクションと暴力が得意なんです、てことも作者は宣言しました。
そして<統一世界>という事前医療団体が怪しいという宣言でもあります。
3・コウノトリのいる共同農場(キブツ)
キブツという単語からイスラエルだということが連想されますね。
主人公は、ソフィア駅での襲撃を逃れ、二人組の殺し屋のうち一人を殺して、逃げ延びます。
ここでもマックス・ベームが手配している鳥類研究家がいます。イド・ガボール。
彼に会うためにベイト=シェアンというところにあるキブツに行きます。
そして、もう一人ヨセ・レンフェルドという自然保護協会の会長にも会わなければならないのです。
イド・ガボール
すでにイドは死んでいました。4ヶ月前のことです。
拷問を受けたようです。
主人公は、イドの妹サラと出会います。
このサラとの出会いも作者の意図の一つです。
主人公はサラを抱きます。ちょっと都合が良すぎますけども。
今後のストーリー展開にサラは重要な要素の一つとなります。
イドは、生前、ここに飛んできたコウノトリの観察をして、怪我したのを介抱したりしてました。
ある日、イドはさらに向かって「もうすぐ金持ちになる」と言っていました。
主人公の手のことをサラに質問されます 真相にたどり着くための大きな情報
これまで主人公はひどい火傷をした自分の手のことを、他人に聞かれても誤魔化すか嘘をついてました。
しかし、体の関係のできたサラには、本当のことを話すのです。
主人公に、家族を失い指紋がなくなるほどの火傷を負った出来事を打ち明けさせる状況を作るために、それを読者に納得させるためにベッドシーンがあったのです。
作者は丁寧に伏線を張っています。
なんで、作者は主人公の手の火傷や家族が亡くなった事情をここまで勿体ぶるのでしょうか?
はい、そこにこの事件の大きな鍵が隠され得ているからです。
ですから、最初ははっきり書きません。しかし、適当なところで明かしておかないと、後で真相を明らかにするところで今まで隠していたことを読者は怒ります。
どこかで告白しておかないといけないので、サラとのベッドシーンを用意したのです。
サラに気を許して、ここまでの調査の総括を主人公は述べます。
そして、サラに気を許した主人公は、コウノトリとダイヤの密輸を結びつけた自分の考えを聞かせます。コウノトリの脚環に何かメッセージが隠されているのでは無いかと。
これは、サラと共に読者に対しても提供される謎解きのためのヒントです。
サラとのベッドインは、ここでも活用されてます。
デュマ警部からのファックス 統一世界について
70年代の終わりに、カルカッタで貧民たちの病気の世話等をしていたフランス人医師ピエール・ドノワーによって設立された。
多くの医師たちの助力と共に、多くの資金を集めた。
資金は1001クラブという組織で、多くの金持ちから集めている。
これも最終地点への伏線になっています。
ヨセ・レンフェルド
イスラエルで会うべきもう一人、ヨセ・レンフェルドはベン=グリオン空港に作られた大きな研究施設にいます。
コウノトリの通り道であるこの空港では、飛行機にコウノトリがぶつかる事故が起こることがあり、それを防ぐための研究施設なのです。
1989年の事故を取り扱ったシャロムという男を紹介します。
所長を信用してないシャロムは、誰かがあの事故のことを調査に来てくれるのを待ってたのです。
飛行機にぶつかったコウノトリの足環から彼が見つけて保管していたものを主人公に渡します。
上質のダイヤです。
ここで主人公はダイヤ密輸のカラクリを知ります。
ヨーロッパとアフリカを行き来する渡り鳥のコウノトリ。その足環にダイヤを隠して運搬していたのです。
だから東回りのコウノトリのうち足環をつけたのが戻ってこなくなったので、その理由と、途中でくすねた奴を明らかにする目的で、コウノトリの調査を考えたのです。
そう、イド・ガボール。彼が足環のダイヤに気付き、横取りをしたのです。
消えたサラ
イドの妹、サラのところに主人公が戻りますが、サラは消えてました。探すと銃もなくなっています。サラが持っていったのでしょう。
彼女を探して、ついにサラがネタニアという街に行ったことを突き止めます。
ネタニアはダイヤ加工の一大中心地です。
そこで、ダイヤの一部をサラが売却したことを突き止めます。
買った男から、サラはもっと多くのダイヤを捌くためにベルギーのアントワープを目指していることがわかります。
イドが多くのコウノトリを撃ち殺し、その足を切り取って保管していたのをサラが見つけたのです。
主人公の推測を聞いたサラが、亡くなった兄の隠し場所を探したのです。
再びのアクション
ソフィア駅で主人公を襲った二人組の殺し屋の生き残りの片割れが、ここで主人公を再び襲います。
なかなかのアクションシーンの後、主人公はこの殺し屋を殺します。強いんですよ。
そして、殺し屋たちは、<統一世界>の人間だと判明します。
アフリカへ
主人公は、すべての解決のためにアフリカに行こうと決意します。
出発前に、デュマ警部に連絡し、ベルギーのアントワープにマックス・ベームが定期的に現れ、ダイヤを売っていたことを調べてもらいます。
そして、サラがアントワープに向かっているので、サラを見つけて、自分がアフリカから戻るまで保護してくれと依頼します。
さあ、一気に解決へ向けて
その3に続くのだろうか