70代の真実

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会計と犯罪ーー郵便不正から日産ゴーン事件 その1

図書館で、新しく購入した本だったけか、なんかのコーナーに置いてあった本を手に取りました。

サブタイトルの最後の方の「日産ゴーン事件」てのに反応したんですね。

会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで

会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで

 

 

この本の実体は

ぼくは著者の細野祐二という人を知りませんでした。

 

著者の紹介みたいなのを読むと、キャッツ粉飾事件で有罪判決を受けた公認会計士だった人です。

残念ながら、その粉飾事件もよく知らず、キャッツという会社名もピンとこないぼくなのですが、この本の最初の方を読むと、裁判で争っていた頃から、自分の事務所でコンサル業務を続けていたとのことで、その業務のことが前半に書かれています。

 

さらに、終わりの方は、自分が執行猶予付きで有罪となったことについての、裁判技術的な分析が書かれており、真ん中の郵便不正事件の分析は、自分の罪を立件した検察局に対する不審と非難の客観的な根拠を提示するためのものです。

最後の方に書かれている日産ゴーン事件も、検察のやり方への不審と非難が書かれており、結果翻って、自分自身への有罪判決の不当性を主張する補強のためのものです。

 

ということで、この本は一貫して自分のことを書いているものです。自己弁護と自己主張。

 

 

なんでそんな本を取りあげたのか

この本は、自己肯定と自己弁護と自己主張に少々ムカつくのですが、けっこう面白いのです。

その理由は、全279ページに及ぶこの本の中で、148ページ、本のおおよそ半分を使って書かれている「郵便不正事件」、これが面白いのです。

 

あの厚生労働省村木厚子課長が、無罪を勝ち取った事件です。

ぼくは、このニュースを認識していましたが、新聞やテレビのニュースをさらっと見た程度で、詳しく調べてませんでした。

この事件を日本の経済事件における特捜検察と裁判制度への批判のために、この本は詳しく書いています。

これが面白い。

 

事件の発端から、検察の狙い、実は外れてしまっていた狙いをなんとかものにするための検察のあがき、そして証拠の改竄、完全な捏造事件。そして無罪判決。

裁かれる検察官たち、日本の経済事件における問題点等々。

 

 

ついでに言いますが、実は初っぱなの自己顕示、コンサル業務の自慢話もなかなか面白いです。

 

 

郵便不正事件のあらまし

さて、まず事件のあらましを紹介します。

今回は、あらましだけにしました。長くなりますから。

次回は、これを踏まえてということで。

 

発端、心身障害者用低料第三種郵便の不正

日本の郵便は、その種類に応じて第一種から第四種まで区分されています。

そして、その区分に応じて料金が定められています。

 

第一種は、封書

第二種は、ハガキ

第三種は、承認を受けた定期刊行物

第四種は、通信教育や学術刊行物等のための特定郵便物

 

このうち第三種の中に、さらに破格に安い心身障害者用低料第三種郵便があります。一通8円。

 

この郵便物は、中身の刊行物の紙面積の半分、その封筒については無制限に広告を掲することが認められています。

てことで、この障害者団体が発行する定期刊行物を利用して、ダイレクトメールを送ると、コストを大きく節約できるのです。

 

 

大阪の新生企業という広告代理店が、郵便料金を安くするための障害者団体を広告主につなぎます。

でもね、この障害者団体に実体のないものがあるのです。

 

2009年に、実体のない「白山会」(元「凛の会」)という障害者団体の守田会長と、新生企業の宇田社長が逮捕されました。そして白山会の前身団体「凛の会」の倉沢元会長、その他関係者も合わせて13名が逮捕されました。

インチキの障害者団体を利用した郵便料金を不当に安くして差額37億余の利得を得てたということです。

郵便法違反です。

 

しかしながら、この郵便法違反の法定刑は30万円以下の罰金刑でしかありません。

これ逮捕に踏み切った大阪地検特捜部にとって都合よくありません

 

 

特捜検察にとっての使命、巨悪を暴かねば

問題は、この「凛の会」に、それが障害者団体であることの証明書が交付されていることです。

これは郵便局が心身障害者用低料第三種郵便の扱いをする際に、必要なので提出を求める書類です。

出したのは障害者団体を所轄する厚生労働省

 

これです。この証明書。

厚労省の公印の押された証明書。

出した部署の課長は村木厚子。キャリア官僚。

 

政治家が絡んで、厚生労働省に働きかけて、それが村木課長までおよんで、キャリア官僚が担当者に命じて証明書を発行したなんてストーリーは、大阪地検特捜部にとっては理想的で素敵なものです。

 

この特捜部長は大坪、そして主任は前田検事。

なんとかこのストーリー通りに巨悪を暴くことこそが、特捜検察にとっての使命になりました。

 

偽造公文書作成罪ならば、1年以上10年以下の懲役刑ですからね。

しかも、代議士、キャリア官僚という筋の不正ならば世論的にも十分ですもん。

 

特捜検察は、このストーリー通りの事実を求め、逮捕者に尋問を行い、ストーリー通りの自白調書を作成していきます。

 

検察の描いたストーリー

白山会の前身の凛の会の倉沢元会長は、国会議員の石井一国に公的証明書発行の口添えを依頼。

石井議員は、これを承諾して、厚労省の塩田障害保険福祉部長に電話をして、「凛の会」に対する公的証明書発行に便宜を図るように依頼。

厚労省の塩田部長は、この依頼を社会・援護局障害保健福祉部の村木厚子企画課長に伝えた。

村木課長は「凛の会」が障害者団体としての実態が無いことを認識しながら、課の社会参加推進室の上村勉係長に対して、公的証明書の発行を指示。

 

 

事実は何もしていなかった

倉沢元会長は石井議員に頼みに行こうとしたが、スケジュールが合わずに会えなかった。

白山会の守田会長には、石井議員に頼んでおいたと言う。

 

公的証明書の発行依頼については、倉沢元会長が請け負っており、発行に関する直接の担当者である上村係長に対して何回か催促をしている。

 

「早く公的証明書を出してくれ」とせっつかれていたのにも関わらず、上野係長は自分の都合で、この公的証明書の発行業務を放っておいた。

自分の都合で手をつけていなかったことを負い目に感じていた上野係長は、何回目からの催促を受けて、調べることもせずにさっさと書類を作成。

公印は課の中に、誰でも触れるような状態で置いてあるので、村木課長を通さず、自分で押印して証明書を発行してしまった。

 

倉沢元会長以外の白山会の関係者は、ちゃんと石井議員に頼んで、手を回してもらっていると信じ込んでいた。

最終的に倉沢元会長が公的証明書を持ってきたので、ストーリー通りに書類を手に入れたと思い込んでいる。

 

 

村木課長の逮捕

倉沢元会長は、検察の取り調べに対して、事実とは違う他の関係者に思い込ませていた内容を言い、これを文章にした自白調書に署名した。

 

村木課長の上司である塩田部長は、全く記憶にない話を検察から言われ、動揺したが、自分さえ助かればという思いの中で、検察のストーリーを受けいれて、村木課長を生贄として差し出した。

この塩田部長、悪いでしょ。

 

ということで検察は村木厚子課長を逮捕しました。

 

 

検察のあせり

石井議員と倉沢元会長は実際に会っておらず、調べてみると倉沢が石井議員に会ったと言う日には、石井議員はゴルフをしており、会う時間はありませんでした。

しかし、検察は当初作ったストーリーにこだわります。なんせ、いくつもの自白調書を取っているのですから、絶対に村木課長を有罪にしようとがんばります。

 

残念ながら、裁判において倉沢元会長は、自分の自白を否定、村木課長になんらかの依頼が行っていることを否定しました。

 

検察の前田主任検事は、公的証明書を作った上村係長のフロッピディスクを手に入れていますが、このプロパティ上の日付が、村木課長からの指示に従って作成したという自分たちの想定するストーリーに一致しないため、これを改竄してしまいました。

 

 

村木厚子課長の無罪判決

前田主任検事による証拠改竄も公になり、村木厚子課長は、この虚偽有印公文書作成・行使について無罪が言い渡されました。

 

他の関係者については、それぞれの罪で有罪が言い渡されました。

 

有名な事件なので、皆さんも詳しくご存知かと思いますが、先にも書いた通りぼくは詳しい事は知らなかったので、この本の内容が面白かったのです。

実際には、もっと詳しくちゃんと書かれていますよ。

 

 

続きは次回に

次回があるのかよと、呆れてらっしゃると思いますが、次回はこれほど長くはありませんので、なんとか、どうぞ、よろしくおつきあい下さい。