70代の真実

70代年金生活者の生活と思ってること、その他思がけないことも

「贋作『坊ちゃん』殺人事件」はすごく面白くて、お薦めしないではいられないのです

先日、この本を図書館で借りてきたと書きましたが、さっそく読んでしまいました。

止められなかったんです。

 

とりあえず「坊ちゃん」を思い出してみた

昔、松山に行った時、市内電車に乗って道後温泉に行けることを知りました。

そう言えば夏目漱石の「坊ちゃん」に、主人公が電車に乗って温泉に行くくだりがあったなあと、その時思い出しました。

小説を読んだ時に、電車が、このような市内電車であるイメージは持たずに、普通の電車であるような気がして、なんか少し遠くの温泉場まで行くような気がしたのです。

松山と道後温泉というのは、全然違う場所だと思い込んでいたのですね。

しかし、現地に行き、市内電車に乗ってみれば、なるほどそうかと納得したのです。

 

さて、「坊ちゃん」はずいぶん昔に読んだのです。そして、いつもながらお世話になっている青空文庫にもあるので、それをダウンロードしても読んでますが、それは何年前なのか、けっこう以前のことです。

それでも、そんなに長い小説でもなく、人気もあるし、テレビドラマでも見たような気がするし、これを下敷きにしたドラマもまた掃いて捨てるほどあるし、日本人の記憶に残っている作品です。

なんとなく内容を思い出すでしょう?

 

と安心していると足元をすくわれるので、とりあえず簡単に説明します。

子供の頃からの無鉄砲で、乱暴だけどまっすぐな性格の主人公は、家族との折り合いも悪いのですが、下女の清だけが子供の頃から可愛がってくれています。この主人公、坊ちゃんは東京から愛媛の中学校に教師として赴任します。

坊ちゃんは、中学の他の教師たちにあだ名をつけます。

校長の狸、教頭は赤シャツ、教頭の子分みたいな野だいこ、腕っ節が強そうな数学教師の山嵐、大人しそうなうらなり、そしてうらなりの婚約者マドンナなどです。

坊ちゃんは生徒たちのイタズラを受けます。そして、いけ好かない赤シャツがマドンナに横恋慕し、婚約者のうらなりを遠くの学校へ飛ばして、マドンナを奪おうとしていることを聞きます。

そして、その他にも赤シャツの横暴を知り、坊ちゃんは大いに怒り、山嵐とともに赤シャツを懲らしめて、学校を辞めて東京に戻ります。

 

かなり雑ですが、ざっとこんな感じ。

もし、なんでしたら青空文庫で読んでみてください。

 

 

さて「贋作『坊ちゃん』殺人事件」

タイトルに書きました「贋作『ぼっちゃん』殺人事件」は、夏目漱石が書いたのではなく、柳広司という作家が書いた小説です。

 

贋作『坊っちゃん』殺人事件

贋作『坊っちゃん』殺人事件

 

 

前回、これを図書館で借りてきたと書いた時に紹介した本の表紙は、文庫本のやつです。

借りてきたのはハードカバーの方で、表紙は上掲のものです。

この絵は、J・M・W・ターナー作の〈チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア〉という作品であると表紙の折り返しに印刷されています。

「坊ちゃん」の中で、坊ちゃんが教頭の赤シャツと、その子分の野だいこと共に海に釣りに行くシーンがあります。

その小舟の中で、島に生えている松の枝ぶりが「ターナーの絵に似ているね」と赤シャツが言い、「あの島をターナー島と呼ぼう」なんて事を言ったのです。

で、そのターナーの絵が、この絵なのか知りませんが、表紙に使っていると言うことは、これがその絵なんでしょうね。

 

さて、「坊ちゃん」の最後は、主人公が学校の教師を辞めて東京に帰るのですね。

この「贋作『ぼっちゃん』殺人事件」は、その三年後が舞台です。

 

坊ちゃんは、東京に帰り、市内電車の整備等をする技手になっていました。

ある日、一緒に教師を辞めることになった数学教師の山嵐とバッタリ出会います。

山嵐は、古い新聞の切り抜きを取り出して坊ちゃんに見せます。

 

なんと、あの教頭の赤シャツは、自殺していたのです。ターナー島と名付けた島の、あの松の枝で首を吊ったのです。

坊ちゃんと山嵐が松山を去ったその日の事でした。

赤シャツは、マドンナとともに小舟を借りて島に渡り、そして遺書を残して死んだのです。後に残ったマドンナは呆然と赤シャツの首吊り死体を見ていたらしい。

もちろん、か弱い女の手で赤シャツを殺して松の枝に吊り上げるなんてことは出来ません。

自殺。

 

山嵐は言います。

これは自殺ではない。赤シャツは殺されたのだ。一緒に四国に行って真相を突き止めようぜ。

 

その次の日に、坊ちゃんは山嵐とともに四国へ旅立ちました。

 

 

登場人物は、あの「坊ちゃん」のまま

そう、あの坊ちゃんが主人公で、赤シャツの殺人事件の真相を探っていくのです。

原作に登場した人物が、そのまま再登場します。

あ、女中の清は、もう亡くなっているのです。

 

でもね、世間知らずの坊ちゃんが見た人物たちと、そのバックグラウンド、諸事情は、彼が原作で認識したものとは、だいぶ違っていたのです。

次第に現実を知っていく坊ちゃん。

 

そんな展開。

推理小説ではなく、行動派探偵小説ですね。

 

 

この作品の書き出しは、

親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。

小学校にいる時分、学校の二階から飛び降りて一週間腰を抜かした。・・・・・

ほとんど原作まんま。

青空文庫で確認すると、一行目の改行が違うのと、原作では「腰を抜かした事がある」となっている。

 

まあ、完全に「坊ちゃん」の世界を持ってきて、その上に柳広司の世界を展開しています。

「贋作」って言う理由。

 

 

面白いんです、すごく。皆さん読みましょう。

作品のジャンル性格上、あらすじなどは書くことが出来ません。

 

でも、原作に書かれてたいくつかの出来事が、本当は(?)どういう事だったのか、次第に明らかになっていき、そして赤シャツ殺人の謎も、それにつれ解きほぐされて行くのですというくらいは書いても良いでしょう。

江戸っ子の、物事にこだわることの無い、まあ深く考えることをしない坊ちゃんも、最後は真相に行き着きます。

 

全部終われば、また坊ちゃんは東京に帰り、あの坊ちゃんに戻りますが、謎を解いた時の坊ちゃんは、ちょっとキャラが違う、まあ現実によって少し大人になったということなのでしょうね。

 

冷静になると、あれこれ、ちょっと気になる箇所もあるのですが、そういう事は気にしない。とにかく、すごく楽しめる作品です。

読みましょう。読んでくださいと、またまた押し売りのぼくなのです。

 

id:rko-3rdgenerationさん、ありがとう。