こういうの夜にならないと思い出さない。
昔々、そうあれは完全に40年以上前のこと。
夜中、どう言う理由か覚えがないけど、ぼくは東京某所を歩いてました。
盛り場という訳ではないけど、そこそこ明るい路地なんかありました。
ぼくは、大きな通りを歩いていて、ちょいと左側に出てくる路地を見てみると、建物の二階に気になる看板。
「五年前」って書いてある。
どう考えても、それはスナックあるいはバーの看板ですが、変な名前でしょ。
あまり高い勘定にはならないだろう雰囲気が、看板からにじみ出てました。
行ってみました。
どんなのだったのか思い出せませんが、しけた階段を上っていったのです。
ドアを開けたらカウンターがあり、中にメガネ掛けたあまり綺麗な感じがしない男が立ってました。
客はいません。
男は、ジーパンにチェックのシャツ。まあ、そんな感じ。
細くはない体つき。
イッテQという番組に出ているロッチの中岡のイメージだったような気がするけど、それよりはマシだったような気がします。
だって、彼の作った変な料理を抵抗なく食べましたから。
「良いですか?」
ドアを開けて、店内を見回してから、ぼくは聞きました。
「あ、今ママいないですが、どうぞ」
そう言われて、ママがいないということは何を意味するのか分からなかったけど、とりあえずぼくはカウンターの椅子に座ったのです。
「なんでもどうぞ、ぼく留守番している客ですが、お勘定いいですよ」
「え?客なの」
「ここのママよくいなくなるんで、その間客が店番するんです」
ということで、ぼくはウィスキーもらって飲みました。
食べ物は、その店番している客の男が、何か作りたいと言うので、受け入れました。
よく覚えてませんが、卵を使った何かで、味はそんなにヒドくは無かったように思います。
その男と話をしながら飲んでいると、電話が掛かってきました。
男は客のくせに、当たり前のように電話に出て話してます。
ママからの電話でした。
今、店にだれかいるのかと聞かれて、自分の他にもう1人と答えてます。
テキパキした指示が出ているようです。
男は、電話を切って、「マージャンしますか?」と聞くので、「するよ」と答えました。
「店を閉めて、行きましょう」
「え?」
「ママの男がアパートにきて、マージャンしたいと言ってるらしいです」
お勘定無し。
男はそそくさと店を閉めて、表通りでタクシーを拾い、ぼくを座席に押し込みました。
こういうことはよくあるのでしょう。
しかるべき所でタクシーを降り、マンションと呼ぶ人もいるだろう大きなアパートに入って、エレベーターで上がり、外通路に面した入り口の前に立ちました。
「あ、暗い」
ぼくらが立っている入り口の部屋の窓は真っ暗。
「ちょっと待ちましょう。男と一緒だから・・・」
変な気を回していると、パッと灯りがついたので、呼び鈴を鳴らしました。
ママは、細身で、自分で仕事してる中年の独身者というのがみて取れる女性でした。あまり水商売に見えないのが不思議でした。
ママの男は、背が高くてがっしりしてるけど、女のアパートで世話してもらっている状態が似合いそうな感じです。
名前を名乗るだけで、自己紹介もしないまま、ぼくらはマージャンを始め、明るくなるまで打ちました。
その後、もう1回その店に行きました。
ママはちゃんとカウンターの中にいました。
でも、次に行った時には店が閉まっていました。
留守番の客がいなかったんでしょう。
それから、その店には行っていません。