大昔のことです。
マイアミに行こうと思うと言うぼくに、知人がこう教えてくれました。
「どこに行きたいのか?たぶんマイアミではなく、あなたが行きたいのはマイアミビーチだ。その2つは全く違った場所だ。それでも、あなたの想像と実際のマイアミビーチは全然違う。そこは老人しかいない」
そう言われても、ぼくの頭の中のイメージは、コパトーンのCMの画像でした。日に焼けたビキニガール。
知人の忠告の前半だけを聞いて、ぼくは7月になったばかりのマイアミの空港に着きました。天気が崩れそうな夕暮れ時でした。
ホテルは、空港の電話ブースに設置してある職業別電話帳、イエローページを調べていくつか電話して、安いところに決めようと思っていましたが、面倒くさいので、ほかの乗客とともに、タクシー乗り場に行きました。
予想していなかったのですが、マイクロバスの乗合タクシーがいました。
皆さん、タクシーの乗り込み口に立っている運転手に、宿泊予定のホテルを告げて乗り込みます。
ぼくは、ホテルは決まってないんだけど、良さそうなホテルに頼むと告げました。
運転手は「どんなホテルがいい?」と質問してから、ニタっと笑って「安いところだね」と一人芝居をしてみせて、運転席のすぐ後ろに乗るように言いました。
タクシーが走り出すと、すっかり暗くなった空に稲妻が走りました。
「4th of JULY (独立記念日)の花火さ」と運転手が言ったのを、今でも憶えています。
他の乗客を全部下ろしてから、数軒回って運転手が決めてくれたホテルは、「波も涙もあたたかい」という映画でフランク・シナトラが経営していた、今にも人手に渡る寸前の小さなホテルを思い出させるところでした。
シーズンオフということもありましたが、強烈に安かった。
それでも風呂にはちゃんとお湯が出ますし、ホテルの後ろはプライベートビーチです。
そこに一週間ほどいました。知人の言うことは正しく、たしかに老人ばかりのところでした。英語に混じってスペイン語も多く耳にしました。
引き上げる時、空港のバーでピーナコラーダを飲みました。
If you like PinaColadas というフレーズがラジオからガンガン流れていた年です。
天気の良い昼間でした。
正しい時に、正しい所に座って、ストローでズルズルと飲みました。
マイアミで、日本人と思われる女性が、犬の散歩中にワニに襲われて食べられたというニュースを読んで、犬はどうしたんだろうと心配した時、こんなことを思い出してしまいました。